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エースコンバットZEROのSS「PRIDE OF AEGIS(PoA)」の連載を中心に、よもやま好き放題するブログ。只今傭兵受付中。要綱はカテゴリ「応募要綱・その他補則」に詳しく。応募はBBSまで。
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I don't need your forgiveness
I don't need your hate
I don't need your acceptance
So what should I do?

 ベルカの進撃は、正に破竹であった。
 3月30日。ついにベルカ軍はウスティオ首都ディレクタスを占領した。ディレクタスの攻防に際して、ウスティオ軍は直接戦火を交えず撤退。無血開城となったが、それは、首都を戦場にする事を嫌った、というよりもウスティオ軍の戦力が既に「軍」としての体裁を保てない程になっている事を示していた。
 結果として、ウスティオは、戦争当事国において最も甚大な被害を被り、既に南部のごく一部の山間部を除いてベルカ軍に制圧されるという状況を許していた。
 しかし、それには代償も伴った。
 ウスティオの「予想外」の反撃に、ベルカはサピン・オーシア戦線への兵力増強ができずにいた。元々、171号線封鎖とフトゥーロ運河封鎖が目的であるサピン戦線はさしたる問題とはされなかったが、西岸のオーシア戦線に兵力を割けないのは予定外であった。結果として、サピンは国土の三分の一程、オーシアに至っては国境から250キロ程度しか侵攻されていないという状況になっている。
 既に兵站線の肥大・長大化に伴い、元々数の少ないベルカ軍の足は止まりつつあった。
 その機を逃さず、各国は寸断された部隊や兵力の再編成を行い始めていたが、国土のほとんどを押さえられたウスティオの再編成は、難航どころか不可能とすら言われた。オーシア・サピンに亡命したウスティオ軍将兵も少なくはないが、ウスティオ国内における再編成は急務であると同時に困難を極めていた。
 そんな中で持ち上がったのが、空軍の再編成計画。ウスティオ空軍は、装備も兵力も足りない。そこで、彼らは苦肉の策として、傭兵を大々的に募集したのだ。
 既に訓練済みのパイロットを、機種・国籍問わず募集する。それは、一から訓練を始めるよりも短期間で、安価に戦力を揃えられる。だがしかし、それはあくまで理想論であり、負けが確定してるような国に肩入れするような傭兵はいない。世間の人はそう考えるだろう。
 現実は、逆だった。
 義勇兵を気取る者、単に報酬を当て込んでの者、様々な者が短期間にウスティオ共和国に対してコンタクトを取り、唯一残った最後の砦であるヴァレー空軍基地に集結しつつあった。また、ベルカに対して悪感情を持つ国からも、続々と支援が集まりはじめた。その最たるものが、海の向こう、オーシアと長年の冷戦構造を続けてきたはずのユークトバニア。彼らがブチ上げたのは、支援ではなかった。

 ――戦争参加。

 ユークトバニア軍が、この戦争に介入すると確約したのだ。
 もちろん、そこに昔ながらの「義」があったわけではないだろう。その多くは、ウスティオが抱える地下資源利権、また、ベルカの土地そのものに向いていた。
 開戦からわずかに一週間。世界は、北の小国を中心に動き始めていた。


 ――やあセレス、元気にしているかい? おじさんは今、サピンにいる。TVで観ているかもしれないね。そう、あの戦争が起こってる国だ。
 状況は、TVで言っているより悪くはない(大抵TVはドラマティックにする為に断片を大げさに吹聴するからね)おじさんも、この通り無事だ。
 ――×××××××××××××
××××××××××××――
 おじさんは相変わらず、カメラを抱えて飛んでいる。
 この国で起こっている事、この国がされている事、この国がこれからする事を、写真に撮ってえらい人に見せる。それで、サピンの軍隊がこれからどこへ行くのかが決まる。
 所属しているのは××××航空隊。サピンの精鋭が集まってる航空隊だ。彼らは戦争が起こった最初の日から、前線で飛んでいる。おじさんはサピンでも最高のパイロット達に守られて飛んでいる。だから安心していいよ。
 それと、いつものように写真を入れておくよ。
 三人組の女性パイロットは、××××隊のメンバーで、事実上の××××のリーダーで、×××××××に乗っている。地上でも、空中と同じフォーメーションで動いてる事が多い。編隊列機の序列は、以前教えた通りだよ。他にも、基地にはたくさんの女性兵やパイロットがいる。関節を極められてるのが××××××隊のリーダー。××××の若手のホープ。彼はサピン唯一の××××ドライバーだ。
 ついこの間までいたプエルトルス。この手紙がセレスの手元に届く頃には、ニュースでやっているかもしれないけれど、おじさんは無事だよ。
 そして、サピンの空。とても、戦争をしているとは思えない空が広がっている。とても、とても広い空だ。
 どうしてこんなきれいな空で戦いが起こるのか。この青を見たら、戦争なんてどうでもよくなるのに。きっと、ベルカの人達には、僕達には決して理解できない、深い傷があるのかもしれない。この青でも、癒せない程、深い傷が。
 僕はしばらくここにいる。ここで撮るものがあるから。ここで見ていないといけないものがあるから。
 大丈夫、危なくなったらちゃんと逃げ出すよ。おじさんがとても怖がりなのはセレスが一番よく知ってるだろう?
 それじゃあ、またどうにかして手紙を出すよ。次の写真を楽しみに。
 ――愛するセレスへ ジャンニ・ルイジ・エランド

「相変わらずだねえ……」
「無頼を気取るのは昔からだが……最近特に酷い気がするな」
「アンタからもなんとか言ってやったらどうなんだい。兄弟でしょう」
「それで止まるんなら、もう一〇年以上前に止めてるよ」
 パパとママが言ってる事をぼんやりと聞き流しながら、僕は空の写真と、広いホールでくつろぐ女性パイロットの写真をためつすがめつ眺めていた。
 女の人でも、飛べるんだ。
「なに。あの根無し草は、帰ってくるさ。この子が泣く」
 不意に、パパが僕の髪をくしゃくしゃにする。
「ちょっ、もう、やめてよ、僕は子供じゃないってば」
「大人の女が「僕」なんて言うか。ほら、上がって、宿題やってきなさい」
「はぁい」
 大事に折りたたんだ手紙を封筒にしまい、写真を抱えて二階にあがる。
 女の人でも、飛べるんだ。
 僕の頭の中では、その一言が、壊れたレコードのように繰り返されていた。


――サピン ボスケネグロ北部 1995年4月2日


『アイリス2より1、レーダー内に敵影なし』
『アイリス3、こちらも敵影見えません』
「私もよ、2、3」
 サピン南部域。敗戦を重ねた我々は、細々と活動を続けている。ウスティオに比べれば幾分マシだろうが、それでも大負けをこいてるのには変わりない。アリオラ組はプエルトルスを撤退し、南部の小都市、ボスケネグロに駐屯していた。
 プエルトルスよりも小さな観測機の基地に、大挙して戦闘機が押し寄せ、日ごとに爆音と共に舞い上がる。私はこの生活で慣れてしまったが、せいぜいがヘリとターボプロップの音しか聞いた事がなかったであろう現地住民にとって、遠慮会釈のないジェット戦闘機の爆音は、まさに「突然現れた戦争」そのものだろう。
 今日の任務は、北進してのCAP任務。というよりは、敵が来たらいつでも逃げ出せるように、おっかなびっくり北の様子を見に行く、というのが正しいかもしれない。
『カンタオーラよりアイリス1、状況を知らせてください』
 レシーバーに届く声は、カンタオール2のいつもの低い声ではない。カンタオーラ。サピンに四機存在するAEW&C(サピン空軍は「あれはAWACSだ」と主張しているが)E737の一機で、管制官が唯一女性で構成されている機だ。
 故に、男性人気が非常に高い。
「アイリス1から3、担当空域オールグリーン。敵影なし」
 私達は現在、「編隊」と呼ぶにはいささか抵抗を感じる程離れた距離を飛び、そのレーダー能力をもって、カンタオーラの警戒支援にあたっている。
 Su37以外にこんな真似ができる機体は、Mig31やF14ぐらいだろうが、どちらもサピンには存在しない。
 もともと、サピンにはAWACSがなく(くどいようだが、サピン空軍はE737はAWACSだと主張しているが、あれはAEW&Cで管制能力は限定的だ)上空警戒に関しては、先進国よりやや劣っているといわざるをえない。海軍の空母に至っては、戦闘機搭載スペース確保の為に、E2ホークアイの代わりにレーダーを抱え込ませたシーキングヘリコプターで早期警戒任務をやっているというのだから驚きである。
 そんなわけで、私達は「非常時のカンタオーラの護衛」を兼ねて、見た目は平和に見える空を飛んでいる。
『了解です。あの……アリオラの、アイリス、ですよね』
 緒戦の華々しい活躍と、その後の転落人生からか、「アリオラ組」はサピン空軍の中でも語り草となっていた。地域によって初日に全滅していたり、まだ北部で包囲されたまま戦っていたりと、ロクな話になってないらしい。この逸話の数々は、そのまま現在のサピン空軍の混乱ぶりを現していると言っていいだろう。
「ええ。正真正銘、アリオラ所属よ……で、あなたは何を聞いてるわけ?」
『あ、いえ決してもうアリオラに人間は存在しなくて、今飛んでるのは全部AI機だとか、アリオラ組は傭兵の航空隊にすげかわって、前のような教導団じゃなくなってるとか、そういうお話ではなくですね』
「前者は「ねーよ」だけど、後者はあながち嘘とも言えないわねえ」
 苦笑混じりに答えた途端、相手が「うぐ」と言葉に詰まるのが聞こえた。
『あ、あのその、すみません』
「管制がそんなオタオタしててどうするの……しっかりなさいな」
『すみません』
「管制が謝んないの。バイラオーラが不安になるでしょ」
 なるほど。能力はともかく、この子が男受けする理由はよくわかった。
『すみません……え、でも後者は嘘とも言えないって……』
「私達を見てごらんなさい。私達は第3航空騎兵よ? フリー組も受け入れてるし、正規兵と外人部隊・傭兵は半々ってところね。正規兵も正式機採用機じゃないのもいるし。見た目は独立愚連隊かしらねえ」
『なるほど……』
 私語を慎めと言う管制はよくいるが、自ら世間話を始める管制というのも珍しい。
『私達は、戦争が始まった時も、ここにいました。日ごとに、戻ってくる機が減って……ある日を境に、戻ってくる機が増えました。北からの、撤退で』
「あなたが何もできなかったとでも? それがあなたの仕事でしょうに。その機体で、いいえ、そのコンソールで前線に立てるわけじゃないの。あなたの仕事は、そのコンソールに映ってる現実を、前線で戦う私達に伝える事。それ以外に、あなたには何も求められちゃいないわ」
『私には、見てる事しか、できないんですよね』
「そうよ。その仕事はあなたにしかできない。ある意味では、前線で飛ぶよりも大変でしょう。それにあなたが前線配置を望んだとしても、その機体でドックファイトができるわけでも、あなたが戦闘に貢献できるわけでもない。あなたができるのは、ミサイルの一発、銃の一発も撃たずに、そこで起きている事を、兵士に伝える事なのよ」
『でも私は、見ている事もできなかった』
 やれやれ。手のかかる子だこと。
「いい? 担当区域だとか、難しい事はこの際とっぱらって、あなたが今、ここで飛んでいる意味を考えなさい。ここは今、前線なの。あなたが望んだね。あなたがしゃんとしてないと……」
 次の一言を言うには、一呼吸分の勇気が必要だった。
「私達が死ぬのよ。あなたが見てる前で。それが望み?」
『!』
 まあもっとも、空中管制がなくても戦える(というより主に予算問題からそういう状況に置かれがちな)ユーク機乗りであるから、別段問題はないと言えば問題ないのだが、それは黙っておく。
「仕事はどうあれ、あなたもウィングマークつけたロイヤルエアフォースでしょうに。そんな事で陛下に申し訳がたつと思ってるの? 軍隊にいらない仕事なんか一つもないのよ?」
『……すみません、泣き言みたいな事言って』
「いいのよ。こんな状況だもの。誰でも愚痴の一つもこぼしたくなるってもんだわ」
『もう、大丈夫です。この空域は、私が見てなきゃ。私が、伝えなきゃいけないんです』
「そういう事。それと……」
『はい?』
「管制から世間話持ち出すってのも、どうかしらね」
『あ……』
 なかなか面白い子だ。
『お姉様、あんまり新人いじめるもんじゃないですよ?』
 珍しくフェザーが咎めるような口調でむくれてくる。
「フェザー、上空でお姉様って言わないって何度言わせるの」
『あ、す、すみません……』
『お姉様?』
「私のTAC。由来は聞かないで。後、上でそのTAC呼ばないで」
『地上でならいいんですか?』
「私が認めた子ならね」
 一瞬、カンタオーラが息をのむ音が聞こえたような気がした。
『あ、あの……』
 スプラッシュワン。
「ええ、構わないよ?」
 レシーバー越しに、きゃー、とかなんとか、他の卓の者と大騒ぎしている声がくぐもって聞こえる。
『…………はぁ』
 わざわざ聞こえよがしに、アイスが溜息をつく。やれやれ。この子は……。
『……! 2より1、レーダーに信号を探知。ごく弱いですが……』
「方位。データリンク。カンタオーラ、仕事よ! しゃんとなさい!」
『方位360。データリンク回します。カンタオーラ、確認を』
『りょ、了解! ……受信確認。アンノウンの方位、360から南進。速度……ちょっとこれ何? マッハ3?』
「カンタオーラ。不明機の数と、反応の大きさを判別できる?」
『待ってください……数は4、反応は……小型機程度、です』
「恐らくMig31ね。こんな田舎で全力ダッシュしてどこ行くつもりなんだか……ともかく、警戒を」
『了解。操縦――』
『2より1! 目標が上昇、転針! 敵の狙いはカンタオーラと推定!』
『……え?』
「アイス、ETAは?」
『そちらへは二分。三〇秒で接敵できます』
「フェザー?」
『そちらへは、同じぐらいかと思います』
 やれやれ。
「了解。フェザー、早くきなさいよ? カンタオーラ。当面アイス一人しかいない。シートベルトしっかり締めてなさい」
『……不明機の針路、当機との交差軌道と確認。アイリス1は針路を350へ。迎撃態勢を』
 明らかに怯えた声でカンタオーラが告げる。恐らく声だけでなく、手も震えてるだろう。
「とってるわよ。全兵装スタンバイ。対空フルパック」
《捉え……サピンの目だ》
《一撃で仕留めろ。二回はないと思え》
『当該空域に味方機の申告なし。不明機を敵機と認定。アイリス隊、全兵装使用自由。交戦を許可します』
「お姫様には触らせないわ。二分間、なんとか範囲外に離脱する努力を」
『了解、お願いします。当機は反転。戦域からの離脱を試みます』
「女の子に頼まれちゃったら、頑張るしかないわよねえ」
《レーダーに別の反応。護衛機がいる》
《構うな。フォックスハウンドに追いつけるのはSR71ぐらいだ》
 ……貴方達、もっと、ちっさいので追いつける奴の存在、忘れてない?
『アイリス2、エンゲイジ』
 アイスが交戦コール。
《行け。こいつは俺が相手をする》
 編隊から一機がアイスの対応に離れる。これで残り三機。それでも、非武装の大型機を捉えるには十分すぎる戦力だ。
 IRSTをオン。パッシヴロックからR77を全弾、時間差で解放。これで、ミサイル自身のレーダー有効範囲に入るまでは、事前に入力された数値からの推定空域へと「死んだ」状態で飛んで行く。
 そして、有効範囲に入った瞬間、レーダーシーカーが覚醒、Mig31のコクピットは、突然レーダーアラートで満たされる事になる。
《レーダー波を探知! ミサイルだぞ!》
《反応が近い! チャフ散布! ブレイク、ブレイク!》
 編隊先頭を狙った第一波は、なんとかかわされた。だが、急旋回によって、相手は速度を失った。
「走れ、カンタオーラ!」
『やってます!』
 上昇し、敵の真正面へ。これで私の機は敵のレーダーにモロに身を晒す事になる。
《別口か》
《ちっ。うるさいハエが》
《こいつから喰うぞ》
 やれるものなら? 悪いがこのハエはすこぶるタチが悪いぞ?
 散開した敵が再反転。加速しながら私の機を囲い込む。お決まりの一撃離脱か。
 そもそも、大加速と最高速度を生かした緊急展開能力と、遠距離からいきなり懐に飛び込んでの攻撃がMig31の真骨頂。連中は、ここまで距離が詰まり、速度を失った状態で、力任せに飛ぶだけしか能がない直線番長と私のチェルミナートル、どちらが有利かという事をわかっていないらしい。
 ヘッド・トゥ・ヘッドを仕掛けてきた一機をかわし、その機を追うように反転。案の定、別の機が私の後背につけてくる。
《もらったぞサピン!》
 やだ。あげない。
 フルブレーキングから左右へシザース。ついでに軽く捻ってバレルロール。
《なっ……ちぃ!》
 加速だけは世界指折りのMig31。勢いのつきすぎた機体はあっさりと私の前へ。
「アイリス1、FOX2」
 まず一機。
「フェザー、どこ?」
『後一分少々です』
「全部食っちゃうかも」
『アイス、FOX2』
『アイリス2が一機撃墜!』
 これで残り二機。
《ちっ!》
《焦るな。護衛機をやればこちらの勝ちだ》
 やれればね?
 二機が両側から挟み込むように接近してくる。包囲の密度が薄い、タイミングが早い……。
 一機目をハイGバレルロールでかわし、二機目をオフセットヘッドオンパス。加速度の違いで遠い位置から背中につける。さすがに加速は凄まじい。完全にスピードに乗る前に一発。
 相手に撃たせないのはいいが、これじゃこっちもラチがあかない。もっとも、撃墜が目的ではないのでこれでもなんら問題はないのだが。
「フェザー?」
『二〇秒です!』
「アイス?」
『一五秒』
「了解。あなた達にあげるわ。もうちょっとひきつけてるから、食い散らかしちゃいなさい」
『了解』
『了解!』
 溜息混じりに、外した一機を追う。敵編隊は私を堕とそうとやっきになって喰らいついてくる。
『ロックオン。撃ちますか?』
「撃っちゃいなさい」
『アイス、FOX3』
 アイスが私とベルカ機が入り乱れる空域にミサイルを放つ。
《畜生、正気か!? 味方がいるのに撃ちやがったぞ!》
《回避! 回避!》
 追尾を中止して反転する機に、フルブレーキング、機首上げからのハイGバレルロールで旋回半径を小さくして回り込み、後背をとる。少し遠いが、限界距離ギリギリでR73をロックオン。
「アイリス1、FOX2!」
 ミサイルの射出を確認してからブレイク。高度を下げる。
《ようしかわし――》
 アイスのミサイル回避に躍起になっていた敵機は、私が放ったミサイルに気付かなかった。近接信管で作動したミサイルは盛大に破片をばら撒き、Mig31の主翼根元に大穴を開ける。高G旋回中だったMig31の主翼は弾け飛ぶようにへし折れ、泡を食ったパイロットがベイルアウト。
『アイリス1がキル』
『アイリス3、FOX3!』
 ようやく戦域に到達したフェザーがミサイル発射コール。
《くそっ、何機いるんだ!? 残ってるのは俺だけか!》
 相手は明らかに私達をナメていた。既にサピンにまともな戦闘機が残っていないとたかをくくっていた。その代償は高くつく。
「囲い込め。逃がすな」
『了解』
『了解』
 状況にようやく気付いた敵機が針路を北に向けるが、アイスが横合いからガンアタック。アイスが珍しく外す。しかし、それはあくまで「詰めの一手」でしかなかった。
 必死に回避する敵機は、中距離からレーダーで機体を薙ぐ私の機と後背のアイス機に意識を集中している。反対側から、フェザーがヘッドオン。
『アイス、ゼロタイミング、ライトターン』
『了解』
『3、2、1、0!』
 タイミングよく離脱したアイス機に合わせ、フェザーがヘッド・トゥ・ヘッド。機銃弾はまともに右肺インテークを直撃。Mig31の右半分が吹っ飛んだ。
『アイリス2、アイリス3の撃墜を確認』

 離脱したアイス機に、フェザーが翼を並べ、私の元に戻ってくる。
『空域内の敵機全撃墜を確認。念の為全集警戒態勢を維持してください』
 ようやく緊張の解けたカンタオーラが告げる。レーダーには反応なし。二段構えでステルスでも持ってくれば別だが、さすがにそこまでの手間をかけはしまい。
『久し振りに完勝です』
「ええ。開戦以来ね」
 あまりに簡単にいきすぎた為の油断もあるだろうが、それよりも、侵攻スピードが速すぎたのだ。
 機体の整備が追いついておらず、伸びた補給線は部品の供給を遅らせる。そしてベルカがその解消にやっきになっている最中に、我々も再編成を終える。
「これから、ね」
『アイリス隊、増援の飛行隊が三分後に到着予定。彼らと交代に帰還してください』
「了解。皆平気?」
『おかげさまで』
 カンタオーラの声からは震えが消えていた。
「おめでとうカンタオーラ。これであなたも「実戦」経験者よ」
『できればもう二度と経験したくないです』
「そういうわけにもいかないでしょうね。これからを考えると」
『その時は、せいぜいきゃーきゃー言って、菖蒲さんに助けてもらいます』
「そう頼られてもねえ……」
『女の子の悲鳴に反応しません?』
『……隊長ならマッハ3.2は出して駆けつけるわね』
「アイス、あなたね……」
『でも、お姉様が救援コールを聞き逃したとこなんて私見た事ないですよ?』
「フェザー、あなたまで……それと、上でお姉様って言わない」
『ともかく。これからです。アイリス1の言う通り。サピンからベルカを追い出して、それで戦争が終わるとも思えません』
「かもしれないわね。でも、私達にできるのは言われた空を飛ぶことぐらいよ。せいぜい、死なないように飛ばないと」
『そうですね……増援機の到着を確認しました。アイリス隊、お疲れ様でした。帰還を許可します』
「アイリス1了解。さあ皆、帰るわよ」
『2了解』
『3了解』
 軽く翼を振り、一路ボスケネグロ基地を目指して軽く翼を振って旋回。相変わらず完璧なタイミングだ。教えたわけでもないのに、この二人は何故ここまでに揃うのか。今までにもった編隊でも、ここまで揃う編隊はなかった。あの子でさえ。
 私はぼんやりと考えつつ、帰路についた。

「アイリス1よりボスケネグロ管制。着陸の許可を求める」
『ネガティヴアイリス1、補給のC130が来ている。彼らを先に下ろす。すまないが、彼等が降りるまで、上空で援護を頼む』
「了解。アイス、フェザー。高度をとる。ついてらっしゃい」
『2了解』
『了解です隊長』
 進入コースを逸れ、機首を上げる。
「……あれ、か」
 入れ違いに高度を下げる編隊の反応があった。恐らくはあれがそうだろう。たっぷりと余裕をもった高度へ駆け上がり、巡航に移る。
「補給、か。久し振りに聞く単語な気がしないでもないわね」
 本国で戦っている以上、補給線が寸断されるという事はなかったが、その分、一所に留まる期間が短かった為か、所属基地に補給が届く暇もなかったのが現実だ。アリオラ組は特殊な機体を使用しているから、引越しの際は予備部品ごと、という大所帯になるのが常だったから、補給部品も来たためしがない。その備蓄もいい加減底をつきはじめたと聞くから、恐らくはそれも含まれているのだろう。
 世界のあちこちで見慣れたC130のずんぐりした機体が四機、戦闘機と比べれば随分ゆっくりと進入コースにのる。鈍重な輸送機だというのに、その編隊はきっちり揃っている。戦闘機乗りに見せたい程の見事なフォーメーションアプローチ。遅滞も何もなく、実にスムーズに、編隊が着陸していく。
『OKアイリス隊、待たせたな。彼らがエプロンに引っ込み次第誘導を開始する。位置についてくれ』
「アイリス1了解」
 
 地上に降りると、梱包されたままやら、半分梱包が解かれたのやら、コンテナの山があちこちに積み上げられていた。なんとかハンガーに機体を突っ込み、機体を降りると、アリオラ組にあてがわれたハンガーの一角で、荷物をまとめたローボ2がレジェスと握手を交わしているのを見つける。
「ああ、姐さん! 戻ってきたんですね。間に合った」
 私達の姿を見つけたレジェスが手を振る。
「一体何事?」
「ローボは再編成です。ついでに機種変換らしくて、一時的に基地を離れる事に」
「そういう事で。なるだけ早く、戦力増やして戻ってきますよ。
「そう。しっかりと自分の隊にしてらっしゃいな。それまでに……」
 私はコンテナに占領されつつあるハンガーを見回した。
「新しいあなたの編隊が入れるようにスペース作っとくから」
「お願いします。それじゃあ、皆、俺が戻るまで堕ちるんじゃねえぞ」
 ローボ2は、今しがた到着したC130に便乗する形で移動するそうだ。
 たった一人とはいえ、アリオラ組が減るのも、微妙な気分がある。もっとも、次に彼が戻ってくる時には、彼の編隊となったローボが、増えて戻ってくるわけだが。
「少しづつ、態勢が整いつつありますな」
「そうね。即アリオラ、なんて事にはならないでしょうけど」
「ところが、そうでもないんですよ」
「どういう事?」
「アリオラは空軍の象徴みたいな基地です。あそこをブンどられたままってんじゃ、反攻の気勢も上がらないってんで、アリオラは、最優先奪回目標の一つだそうで」
 確かに、理屈としては正しいが、アリオラは国境付近だ。ここまで押し込まれている状況で、果たしてそれが可能なのか。
「そんな決定の仕方で大丈夫なのかしらねえ……」
「上の考えは一パイロットにゃあ理解しがたいもんですよ。それ以上に、上としちゃあ、俺達アリオラを広報素材として重要視してるようですが」
「広報素材ねえ……」
「何せ、編隊長が美貌の女傭兵ってんですから。ああ、そんな顔しないでくださいよ。俺達としては、姐さんが傭兵のイメージアップになるって意見は一致してんですから」
「勝手に一致しないでよ……」
「それ以上に、サピン王立空軍としては、外人部隊を積極的にアピールしたいようで。何せウスティオが大々的にフリーを募集してるぐらいですし「元祖」かつ、より有効に運用できるのは俺達だって主張したいんでしょう。正規軍ともうまくやってますよ、ってね」
「私は今は一応正規扱いなんだけどねえ……ヴェンティ達は?」
「連中はフリーですから、明確に傭兵です。でも姐さん。リオはともかく、あのおっさんやら愛想のないベルカ野郎に官報の取材受けさせるんですか?」
 思わず、レジェスの顔を見返す。「愛想のないベルカ野郎」つまるところ、ヴァウ――キョウスケを指している。
「知ってたの?」
「あいつの言葉はなまりがきつい。そりゃ、民族的にゃ姐さんと同じ顔してても、あの言葉ならね。そんな目で見ないでくださいよ。あいつ、あれでも地上部隊からは結構評判いいんですぜ?」
「そうなの?」
「対空砲火もものともせずに、地上部隊がやられ放題になってる野砲を潰しに行って、取って返して戦車隊にガン攻撃。ガートモンテスの連中が、俺達の仕事がなくなるってぼやいてましたよ」
 私達アイリス隊は上空制圧が主任務であり、ほとんど地上攻撃に参加しない。参加したとしても、この間のようにあちこち走り回らされるのがパターンである。
「まあ、そろそろ反撃を考えててくれないと、俺としても泣けてきますわ。それじゃあ、俺も機体のパーツ取りに……俺のイーグルのエンジン、結局左肺も交換になりまして。エンジンが届いてるはずなんで……」
 フトゥーロ戦で被弾したレジェス機は、ここに着いてから一度も空に上がっていない。交換部品はあるのだが、エンジンを二基とも交換する為、サピンにないF100エンジンの調達に時間がかかっていたのだ。F100系ならば、どの系統のエンジンでも積める設計だが、一番調達の容易な普及型のF100-PW-220が来る事になっているはずだった。
「反撃、ですか」
「アリオラ、取り返せますかね?」
「ま、そんないきなりじゃないでしょ。とりあえず。報告書書いて、コーヒー飲みに行くわよ」
「私シャワー浴びたいです……」
「煙草……」 
「はいはい、ほら、行くわよ」

 サピンの反撃の兆しは、陸軍にも、少しづつ現れてきていた。
「大尉! ハビエル大尉!」
「んだよ……こちとら昼寝って最優先任務の真っ最中だってのに」
 自車の砲塔の上で居眠りを決め込んでいた中隊長は、いかにも面倒臭そうに愛マスクを額にあげた。首を傾けると、自分の戦車の装填手が、足元で息を切らしていた。
「なにがあった、軍曹。ベルカが宇宙人とでも手ェ組んだってのか?」
「何馬鹿言ってんですか。いいから、来てください! とんでもないもんが着いてるんですよ!」
 軍曹の血相は確かにただ事ではなさそうだ。それに、軍曹の頼みを聞かない大尉は愚か者だ。幸い、ハビエルは愚か者ではなかったので、のっそりと起き上がり、あれやこれやとまくしたてる軍曹を先頭に移動する。
 果たしてそこに、確かに「とんでもないもん」はいた。
「おいおいおいおい、こいっつぁ……」
「どうです。とんでもないでしょう」
「とんでもないなんてェもんじゃねぇ。こいつぁ……」
 大型のトレーラーに載せられて到着したのは、開戦からこっち、ひたすらにやられ続けた「悪夢」そのもの、レオパルド2だった。ベルカ軍以外に現在使用している国はないはずで、そのベルカと戦争中なのは今更だ。そのベルカの主力戦車に、サピンの迷彩が施されている。
「こんなもんどこから運びこみやがったんだ、お上は」
「なんでも、倉庫で寝てたそうです」
「倉庫でぇ?」
 サピン陸軍の主力を担うAMX30、並びにM60戦車は、いかんせん旧式化が進んでおり、その装甲・砲が第三世代戦車には全く歯が立たないのは、この数日ではっきりと実証された。折りしも世界中が「第三世代」の開発・導入にやっきになっており、サピンも、ベルカからレオパルド2の購入計画があったのだ。
 だが、その契約が履行される前に、サピンとベルカは戦争状態に入ってしまった。
 はずだった。
「あったんですよ。第一陣、一五両。各中隊に一個小隊分……三両支給されるそうです」
「そりゃあご大層なこった。しぃっかし、残りがAMX30てんじゃあなぁ……」
「そのAMX30も補充がきてます、けど……なんかでかいのつけてるんですよ」
「はぁ?」
 AMX30の砲塔は、第二世代特有の丸みを帯びたいかにも戦車、という風体だが、やってきた補充のAMXは、にわかにAMX30だとは思えなかった。
 車体は確かにAMX30である。しかし、その上に載った砲塔は、本来のAMX30の砲塔ではない。
 全体的に直線的になり、前部と後部に追加モジュールらしい装甲ユニットがつけられ、砲の口径も大きく見える。
「こいつぁなんだ……?」
「AMX32。計画だけはあった、例のAMX30の改修型です。予算だ貿易摩擦だで結局ぽしゃっちゃったアレです。どうやら、あれをラインにのせたようです」
「ほぉう、これはこれは……こいつの砲は?」
「120mmですよ、大尉。こいつならあのクソったれのベルカ野郎を吹っ飛ばせますよ」
「女神様が微笑んでくれりゃあな」
 くわえた煙草に火を点け、勢いよくライターの蓋を閉めつつハビエルが肩をすくめる。
「そういや、次の作戦、例の女神様の巣の奪還だそうで」
 煙草を口から離し、盛大に煙を吹きながらハビエルは軍曹に振り返った。
「アリオラか?」
「噂ですけどね。あそこは空軍にとっては象徴みたいなもんですからね。こいつはその為の戦力だそうですよ。これから完熟訓練、即実戦投入。俺達も随分と追い詰められたもんですな」
「馬鹿ヌかせ。俺達が追い詰める番に回ったとか考えられねえのかてめえは」
 次々と到着するトレイラーに目をやり、ハビエルは煙を吐き出した。
「こいつぁ……ひょっとするとひょっとしやがるかもだ。おい、お前、中隊員を集めてこい」
 ようやく頭が起きてきたハビエル大尉に尻を蹴られながらも、軍曹は顔が綻ぶ。
 これでようやく、サピン陸軍は、陸軍としての仕事をできるようになるのだ。
 戦争全期間を通じて、その規模・戦果・スピードから伝説とも言われるサピンの大反攻が、始まろうとしていた。
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エースコンバットシリーズ好きのいい年こいたおっさん。
周囲に煽られる形でついにSS執筆にまで手を出す。

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