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エースコンバットZEROのSS「PRIDE OF AEGIS(PoA)」の連載を中心に、よもやま好き放題するブログ。只今傭兵受付中。要綱はカテゴリ「応募要綱・その他補則」に詳しく。応募はBBSまで。
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Oh my god have i done it again
theres a pulse and its deafening.
I can't help what i hear in my head
it's the switch that i flick when he says

――アリオラ空軍基地 1995年3月24日


「明日は、どうされます? お姉様」
 アリオラ基地の食堂の隅、今やすっかり「アイリス隊専用」と認知されたテーブルに座るカグラの背後に回ったフェザーは、楽しげにカグラの髪を編みながらカグラの顔を覗き込んだ。
「ああ……明日は私達、非番だったわね」
 フェザーのしたいようにさせながらのんびりとコーヒーを飲むカグラは、すっかり日の落ちた窓の外に目をやった。少し雲がある。月は隠れてしまったが、雨が降るほどではない。明日は晴れだと、気象班の予報があったな、と思い出す。
「ああもう、駄目ですよ、動かないでください」
「……ん、ごめんなさい」
 当に食事時間を過ぎ、基地内の騒がしい連中は皆談話室や娯楽室に移動してしまっている。炊事班の軍曹も「姐さん達に」とコーヒーのポットを一つ出し、厨房を閉めてしまった。基地内の全員を収め切れると言われる広い食堂には、アイリス隊の三人しかいない。仲のいい姉妹か或いは、という程にじゃれあう隊長と三番機に目もくれず、二番機のアイスはテーブルの向こう、窓際のソファを一つ占領し、CDプレイヤーから伸びたイヤホンを耳にねじ込んでいる。
 男には男の、女には女の時間がある、というのがカグラの哲学で、今頃娯楽室のダーツの前やビリヤードテーブルで行われているであろう、基地の男連中の男同士の語らいにはなるだけ干渉しない。その代わりに、こうして隊の三人で静かに過ごすのが日課になっていた。もちろん、強制ではない。一人になりたければ、それはもちろん尊重される。日によって、場所も違う。エプロンの端にジープを停めている場合もあれば、自機のハンガーの場合もある。広大な航空基地だけに、そうした場所には事欠かない。
「私は町に降りてくるけど。二人はどうする?」
「あ、私もご一緒していいですか? 少し買い物があるので」
「アイス?」
 目を閉じてCDに聞き入っていたアイスは目も向けずに頷いた。
「じゃあ、決まりね。明朝1000にハンガーに」
「了解です、お姉様」
「Wilco」
 ――だが。
 その「明朝1000」は、ついに来る事はなかった。


――アリオラ空軍基地 1995年3月25日 0517hrs


 騒乱は、瞬間的に訪れた。
「……な……?」
 ベッドから身を起こした私が考えたのは一瞬だった。
『総員に通達。アリオラ基地は現時刻をもって一級戦闘態勢に移行する。全搭乗員は装具着用の上、第一ブリーフィングルームに即時出頭。その他の者は規定のマニュアルに従って行動せよ。これは演習ではない。繰り返す――』
 耳障りな警報音と共に泡を食った声で放送が流れた瞬間に、それは確信に変わった。適当にシャツを引っ掴み、申し訳程度に袖を通しただけで部屋を飛び出す。廊下は、パンツ一つで走っていくパイロットや、慌しくシャツを着ながら走る寝癖だらけの管制官やら、とにかく人だらけだった。改めて、ここにいる人間の数の多さを実感する。
「お姉様! これ……!」
「隊長」
 時を同じくして、近くの部屋から部下二人が飛び出してくる。二人とも姿は私と同じようなものだ。
「ええ。そういう事だと思うわ。問題は、どの程度なのか、ね。さ、着替えに行くわよ」
 私達は頷きあうと、既に走り始めている同僚達に混じってロッカールームに向かって走り出した。

 アリオラ基地には五つのブリーフィングルームがある。飛行隊規模、二五名程度収容のサイズが二つ、小隊規模、一〇名程度収容のサイズが二つ。そして、基地所属のあらゆるパイロットを全員収容できる、特大サイズが一つ。
 この基地に着任してから、ここを使うのは初めてだ。恐らく、今座っているほとんどの者がそうだろう。既に壇上には基地指令と主管制官が陣取っている。
「全員揃ったか。照明を」
 広い室内が一瞬暗くなり、続いて、プロジェクターの光が壁の一面だけを照らし出す。サピン・ベルカの国境地帯。軍の展開図に、×印とベルカ側から伸びる赤い矢印がいくつも映しだされた。
「本日0500、ベルカはオーシア、サピン、ウスティオに宣戦布告した」
 どっ、と室内がどよめいた。ウスティオは理解できる。だが、オーシアにサピンもか。予想を超えていた。隣に座った二人に目をやる。アイスは相変わらずの無表情、フェザーは、予想通り口を開けて茫然としていた。彼女も私の顔色が気になったのだろう。目が合う。僅かに頷いてみせる。緊張した顔で頷き返し、フェザーがスクリーンに目を戻す。
「同時刻に北方防空司令部は敵航空攻撃により機能損失。同時刻、ベルカの機甲師団が越境。空軍の強力な支援の下、南下しつつある。既に第一山岳猟兵旅団、第六六山岳猟兵連隊が六五%を損耗。各地で戦線が寸断され、各個撃破されつつあるのが現状だ」
 北方防空司令部、つまりはアリオラを指揮するポジションは既に失われた、という事だ。という事は、当面、態勢が整うまではアリオラは独自判断での行動を求められる事になる。
 しかし、何故?
 ここ数年の外交でも、サピンはベルカに対して友好的な態度を崩さなかった。東部諸国やオーシアとの外交折衝においても、緩衝役として八面六臂の活躍をしていた。何故だ? ベルカがサピンにケンカを売る理由がわからない。
「現在侵攻中のベルカ軍の目標は、アルロン地方の171号線の奪取にあると推定される」
 171号線か! 171号線は、ウスティオ共和国首都ディレクタスから、サピン王国西部を抜け、オーレッド湾海岸までの全長1100kmを結ぶ幹線道路である。ここを押さえるという事は、オーシアからの支援が受けられないという事である。五大湖資源開発公社の採算割れ隠蔽事件等でベルカとの共同開発に限界を感じたのか、オーシアはウスティオに盛んに資本流入を行っていた。それだけでなく、ベルカを煽るかのように軍事的な関係も深めていたのだ。
 つまるところサピンは、たまたまオーシアとウスティオの間にいたから侵攻の対象にされたに過ぎない、という事になる。オーシアとウスティオを切り離すには、171号線を奪取するのが一番手っ取り早い。しかし、それだけで三ヶ国に対する正面作戦のリスクを犯すだろうか?
 しかし、現在サピンがベルカによる電撃的侵攻にさらされているのも確かである。そしてそれを知らされた以上、我々戦闘機乗りの仕事は一つしかない。
「状況が状況だ。これよりアリオラ基地は稼動全戦力をもって全力出撃、DCA任務に入る。具体的には、アルロン地方で交戦中と思われる友軍部隊の支援、ならびにベルカ軍阻止、制空権奪回を行う。編成は以下の通り――」
 次々に基地に所属する航空隊の役割が振られていく。地上攻撃、上空制圧・攻撃部隊援護。私達アイリス隊には「アルロン東部のCAP任務」が与えられた。首都への爆撃機侵入を警戒しての事のようだ。
「――以上だ。これまでの訓練はこの日の為にあったと思え。これ以上ベルカに我が国土を好きにさせるな。出撃!」
 全員が一斉に立ち上がり、照明のついたブリーフィングルームはいきなり騒然となった。十字を切る者、不安げに僚機らしいパイロットに声をかける者。うつむいたまま立ち上がれない者もいる。この場にいるほとんどは「軍人」ではあるものの、「戦争」を知らない。自分達はその訓練を受けてきた、まさに今の為にいる存在なのだ。
 だが、やれるのか? 実戦を前にした兵士が感じる疑問は、練度や実戦経験の有無とは関係なしに現れる。経験がある方が、それをやり過ごす方法を知っている、というだけの事だ。それも、一人一人、それぞれのやり方で、という事になる。アイスも、フェザーも、それぞれの方法でこれから出撃まで、それと向き合うことになる。
 無論、私もだ。
「アイリス隊! アイリス隊の方はまだおられますか!」
 若い伍長が人ごみをかきわけながら声を上げている。確か彼は総務部のはずだ。
「ここにいるわ」
 わかりやすく手を挙げてやる。そうでなくとも女性パイロットは目立つだろうが、この人ごみではそうはいくまい。
「ああ、よかった、見つかった。アイリス隊の出撃は最後に回すとの事です。所属搭乗員は全員司令室へ出頭せよと」
「了解したわ。アイス、フェザー」
「はい」
「ええ。やっぱり、ですか」
「この作戦に私達が投入される時点で、既定事項なのでしょうけど。それだけ展開が急だという事でしょうね」
 そこで話される内容はわかっていた。一斉に格納庫へ向けて移動を始めているパイロット達の流れに逆らい、私達は司令室へと歩きだした。

「アヤメ・カグラ、キャロライン・ヘス、クリス・ソルヴィーノ、参りました」
 司令室、デスクの前で装備部の軍曹を従えた基地指令、アンゲル・ガルシア大佐がうむ、と頷いた。
「既に察しはついていると思うが、契約オプションを発動する。統合幕僚本部、並びに君達の会社からも了承済だ」
 やはりか、と思う。
 私達は、所属の会社からサピン空軍に出向している「会社員」という体裁をとっており、これまではあくまでも民間人のままであった。それに付随するのが契約オプションだが、簡単に言えば、有事の際にはサピン空軍の指揮下で行動する、というものだ。これにより、対外への戦闘行動が可能となる。
「本日付をもって、諸君ら三人をサピン王立空軍に臨時編入する。所属は第3航空騎兵隊、第14小隊。アヤメ・カグラには中尉、キャロライン・ヘス、クリス・ソルヴィーノ両名は少尉の階級を与えるものとする。これは正規軍と同様の権限をもつものである。制服は事前に申告済の寸法で部屋に届けさせるが、とりあえずは、これだ」
 ガルシア大佐が顎をしゃくると、軍曹が小さなパッチに入った布きれを差し出した。裏にベルクロのついたサピン王立空軍記章と階級章。これをパイロットスーツの襟と袖につける、という事は、つまりはそういう事である。
「了解しました。改めて、よろしくお願いします、大佐」
「ああ。我々としても、君らの能力ではなく、君らの力を借りる事態になったのは遺憾ではあるが……致し方ない。できそこないの生徒共を頼む。守ってやってくれ」
「彼等は十分な練度を持っています。できる限りの事はします」
「頼む。諸君らも出撃だ。私も指揮所に移る。幸運を」
 私にならい、完璧に揃ったタイミングで敬礼。退出する。
 私達はこの瞬間、「民間人」ではなく傭兵となった。

 私達がハンガーに駆け込んだ時には、基地所属の機体は半分程が上がっていた。今も爆装したF4が二機、滑走路を爆音と共に疾走していく。滑走路の端から空を見上げれば、識別灯の光が僅かに白みがかった空へ向かって点々と伸びていっている。明け方近くに、朝に抗うように空へ昇る星。
 あの星のいくつが流星となって燃え尽きるのか。
 私はできるだけそれを考えないように自機へと向き直った。この機体を割り当てられる前からのアイリス隊のカラーである色調の違うダークブルーのスプリンター迷彩。コクピット下に、飛行服の袖にもある、菖蒲のエンブレム。Su37は、推力偏向ノズルとカナード翼によるスリーサーフェス構造の翼面を初めとして、従来のフランカーとは一線を画す機体である。事実、ユークトバニア空軍はSu37の開発には関わっていない。スホーイがベルカやエルジアへのライセンス生産契約で得た資金で開発した、いわば技術実証試験機であり、機体構造はともかく、制御系やコクピットレイアウトは、下手をすると機体ごとに細かくチューニングされ、同じ機体でも計器配置が全くの別物になっている事もままあるのだ。現に、私達のSu37は、それぞれレイアウトが違う。
 そんな、すっかり慣れた機体にも、私の袖や襟同様に、変化があった。垂直尾翼に、アリオラ基地所属を示すARの文字が真新しいライトグレイで描かれていた。
 加えて、キャノピーの枠に書かれた搭乗員名に、それぞれ階級が振られていた。

 1st Lt. AYAME "SIS" KAGURA
 2nd Lt. CAROLINE "ICE" HESS
 2nd Lt. CHRIS "FEATHER" SORVINO

「これで私も、サピン王立空軍士官、か」
「中尉! 搭乗を!」
 機付長の曹長がヘルメットを手に急かす。タラップを駆け上がり、機体に滑り込み、ベルトを締め、計器のチェック。曹長が差し出すヘルメットを受け取る。
「サピン王立空軍へようこそ中尉。兵装は対空フル装備に増槽一つ。機体は完全です。データリンクのプログラムも、既にサピンのものにフォーマットを変えてあります。まだ調整不足でエラーが出ますが、再起動させれば動きます。動かないからって、コンソールを殴らないでくださいよ、中尉殿」
「わかってるわ。そこらの粗野な男共と同じにしないで」
「ええ。調整がしたいですからね。必ず戻ってきてくださいよ!」
「あなたも。ここが吹っ飛んでも、あなたがいないと、他の奴には私のチェルミナートルは触らせないわよ」
「幸運を!」
「あなたもね曹長。離れて!」
 タラップを外した機付長が、装備したミサイルのセーフティピンを全て抜いた事を見せ、機体から距離をとるのを確認してキャノピーを閉め、エンジンの始動シーケンスに入る。
 何度も何度もやったプロセスだ。ふと、そういえば私は単発のジェットを飛ばした事がないな、とふと思う。練習生時代はT4、その後F4、Su27と乗り継いで今に至る。
「全機報告」
「アイリス2、オールグリーン、問題なし」
「アイリス3、オールグリーン。いつでもいけます!」
「アリオラコントロール、アイリス隊、出撃準備よし。離陸の許可を求める」
『了解アイリス隊。お前達は最後に回せと言われている。今ヘリファルテが離陸中だ。奴等の後に上がらせる』
「了解」
 滑走路の端に、F15の一団がいる。オーシアから供与された、サピン唯一のF15編隊、ヘリファルテ。私を初めとした教導隊に徹底的に鍛え上げられた、いわばサピンの最精鋭と言っていい部隊が、二機づつのペアで空へと舞い上がっていく。
『ヘリファルテ1、離陸する』
『了解ヘリファルテ、ベルカ野郎のケツを蹴飛ばして来い』
『月まで蹴り飛ばしてやるぜ』
 ヘリファルテがバーナーの炎を曳いて空へと駆け上がっていく。
「次は私達ね……」
『待たせたなアイリス隊。滑走路進入を許可する』
「了解」
 ブレーキをリリースし、ゆっくりと滑走路へ進入。いつも通り、三機揃っての進入になる。
『アイリス隊、離陸を許可する』
「了解」
 ブレーキをオンのまま、フルスロットル、アフターバーナーオン。推力に耐えられず、ブレーキをかけていても機体が前へ行き始める。
「行くわよ」
 ブレーキをリリース、待ちかねたように愛機が駆け出す。V1到達、全システム、エンジン異常なし。加速続行。VR到達、機首上げ。いつものように、全員同じタイミングで機首が上がる。地面から機体が離れる遊離感。加速を継続。V2到達。同じタイミングで上昇に転じる。完全にスピードが乗ったのを確認して主脚引き込み。これ以上出していると風圧でへし折れてしまう。
『アイリス隊、高度制限を解除。貴機の幸運を祈る』
「アリオラコントロール。そちらもね。全機、ライトターン……ナウ」
 きれいに揃ったタイミングで、三機のSu37が右旋回。
 私達の戦争が、始まった。 


――アルロン地方東部上空 1995年3月25日 0607hrs


『AWACSカンタオール2よりアイリス隊。これより貴隊は当機の管制下に入る』
 担当空域は静かなものだった。地平線にうっすらと太陽が見える東の空、私達の機体は高度一万フィートをゆったりと旋回していた。担当空域のAWACSは、そのコールサインにたがわず、さすがによく通る声だった。
「了解カンタオール2、よろしく頼む。状況はどうなっている?」
『171線沿線は激戦だ。既に陸上戦力の15%、航空戦力の10%を損失。南部域からの増援が向かっているが、支えられるか……戦線は徐々に後退している。由々しき事態だ』
 それでも、「戦力」足りえる私達を、直接戦域になっていない地域に遊ばせている、という事は、司令部の心配は別のところにあると見たほうがいいだろう。
「私達の空域は平和そのもの。本当に戦争をやってるとは思えないぐらいね」
『未確認情報だが、戦略爆撃機によるグラン・ルギド空爆のおそれがあるとの事だ。貴隊はそのCAP任務という事になる』
「了解している。今のところこちらではレーダーに反応なし。そちらはどうか」
『ネガティヴ。こちらのレーダーにも……待て。防空司令部より入電。壊滅したエレノアレーダーサイトが最後に捉えたシグナルに、爆撃機のものとみられる大型のシグナル有とのこと。この状況で戦略爆撃ならグラン・ルギドの可能性が大だ。位置関係的にもそこを通る可能性が高い。警戒しろ』
「了解。寝起きだけれど、目はちゃんと開いてるわよ」
 コクピットの中で姿勢を変え、スティックを握りなおす。西側では、今もベルカの侵攻に晒されている者がいるというのに、私達は、日も昇りつつある、平和な空を飛んでいる。そこまで考えて、この半年の間でこの国に随分と愛着を感じるようになっていた事に気付く。
『隊長? 大丈夫ですか?』
 私の心の揺れを敏感に感じ取ったのだろう。フェザーが声をかけてくる。部下の前で弱気なところを見せない、というのが隊長の常であり心得であるが、方向舵の動き一つで感情まで読み取る部下がいる場合、どうすればいいのだろうか、とたまに思う事がある。
「平気よフェザー。ありがとう」
『警告! レーダーに所属不明の大型機の反応多数南下中。アイリス隊はこれを迎撃せよ』
「了解。データリンクを要請」
『了解した。データリンク開……エラーだと?』
 困惑したカンタオールの声を裏付けるように、コクピットに警告音が鳴る。やはり、急ごしらえでは不都合も出るという事だろう。
「カンタオール2、こちらの機器の不調のようだ。再起動する。待機を」
『了解』
 飛行中にシステムの再起動なんかやった事はないが……大丈夫なんだろうか……不安に思いながらも再設定。が、やはりそう簡単にはいかなかった。相変わらず接続しようとするとエラーが出る。
「……ネガティヴ。エラーが出たまま。仕方ない。カンタオール2、アンノウンのおおよその方向を指示してちょうだい」
 この程度で戦えなくなる程、私達は先進テクノロジーに頼り切り、というわけではない。加えて、Su37を開発したユークではAWACSへの依存度が低く、戦闘機間のデータリンクが強化されている。Su37は編隊長機として、編隊の中核となってミニAWACSたりえるだけの能力を持っている。AWACSの管制下と同等とまではいかないが、誰か一人が捉えれば、その情報は全機で共有できる。
『了解アイリス隊。不明機の進路、方位300から150へ向かって飛行中。貴隊の真北にあたる位置だ』
「了解カンタオール2。全機散開」
『2了解。東側に展開。少し高度を上げます』
『3了解。西側に回ります』
 アイス、フェザーの二機がそれぞれ大きく旋回して私から離れていく。私は機首を北側に向け、レーダーを最大レンジで作動。スクリーンを注視する。探知最大距離は400km。フランカーシリーズの後継機に搭載される事になるであろう最新型のスロットバックレーダーが搭載されている。同時追尾可能な目標も増え、これならばアウトレンジ攻撃も可能である。
 レーダーに反応なし。少し東に機首を振り、再走査。反応なし。
「アイリス1より2、3。レーダーに反応なし」
『アイリス3、反応なし』
『アイリス2、反応な……方位110に強い反応多数。捕まえました、隊長』
「2、データリンクを」
『了解』
 アイス機からのデータが即座に隊内の全機に送信される。
「2、そのまま高度を上げて接敵針路へ。フェザー、後ろに回り込め」
『アイリス2了解』
『アイリス3了解』
「カンタオール2、当該目標と思われる反応を探知。確認後、敵性であれば攻撃、排除する」
『了解アイリス1。こちらでも見えている。よい狩りを』
 アイス機が送ってきたデータを基に機首を振る。
「全機、全兵装使用自由。敵性と判断でき次第攻撃を許可する。人の家にお邪魔する時のマナーもなってない男共に、礼儀を教えてあげなさい」
『アイリス2了解』
『3了解。いよいよですね』
「交戦既定」
『戦う意思のない者を撃たない』
『戦えなくなった者を撃たない』
「ただし」
『『卑怯者はその限りにあらず』』
「よろしい。では、レディス。始めましょう」
『アイリス2、不明機編隊を確認。パスファインダーにF4、編隊の先は……BM335? こんな古い機体、よく飛べるわね。IFF判定レッド。ベルカです』
「連中、もう勝った気でいるわね」
『では、教育してやります。アイリス2、エンゲイジ!』
 目視外で、まずアイスが先陣を切る。レーダーロックから、中射程ミサイルをヘッドオン、上方から撃ち下ろす。
《敵襲!》
《クソっ、制空権は確保してるはずだろう!》
 パスファインダーのF4、先陣のBM335が直撃を喰らって火を噴く。その火球が、小さく視界の先に現れた。
『アイリス2、2キル』
「爆発を目視。アイリス1、タリホー」
『後続部隊を確認。B52が……広範囲に六機、護衛はF4、Su27の混成部隊』
「了解。フェザー、位置は?」
『接敵まで約一分です』
「了解。先に始めてるわよ。アイリス1、エンゲイジ。アイス、護衛機の相手をする」
『了解、アイリス1』
《一機だけだと? こいつ、どこからきやがった!? 護衛機は飛びながら寝てたのか!》
《3時方向から別の奴が来てるぞ! ブレイク! ブレイク!》
 突然の襲撃に混乱する敵編隊の真横からレーダーロック。盛大にR77、口さがない連中に言わせれば「アムラームスキー」と揶揄されるユーク製レーダー誘導ミサイルをばら撒く。
《馬鹿な! 待ち伏せだと!?》
 一発がB52の胴体に命中。ど真ん中から機体がへし折れ、爆弾をこぼしながら空中で分解、爆発する。
《くそっ、三番機が食われたぞ!》
《護衛隊、何をやっている!》
 私に向かって護衛戦隊が機首を向けた瞬間に、上空からアイスが急降下。
《上から来るぞ! 気をつけろ!》
《どこだ! 見えない!》
 すれ違いざまにガンアタック。一機のSu27が直撃を受ける。
《畜生、機体が穴開きチーズにされちまった! なんとか飛べるがこれ以上の追随は不可能! メテオール3、離脱する!》
《サピンは張子の虎じゃなかったのか! 話が違うぞ!》
《全員で行け、全員で! 相手はたった二機だぞ! 爆撃隊はコースを維持!》
 恐らくは伝統のベルカ空軍。アルロン地方での戦闘は奇襲攻撃の効果も相まって一方的な展開になっているのであろう。安心しきっていたところに立て続けに味方が消えていけば、その恐怖は計り知れまい。まともにやりあえば数的な不利から切り崩されかねないが、機体性能と敵の油断、加えて敵の混乱がそれをイーブン以上にしている。
 ようやく目が覚めたようにF4のエレメンツト――ベルカ軍だけにロッテと言うべきか?――が加速してくる。ヘッドトゥヘッド。両者外し、ほぼ同時にフルターン。最小旋回半径ではSu37に分がある。途中でロールを入れ、逆方向へ旋回。オフセットヘッドオンパスへ。
『アイリス1、チェックシックス、Su27がついてます』
 数では向こうに利がある。旋回するということは、目標編隊に背を向ける事になる。護衛機の残りが殺到してくる。
「アイス、後ろはお願いね」
『心得ました』
 後ろについたSu27はそのままに、F4を追う。さすがにベルカ軍。フルターンでも編隊が乱れない。
《ちっ、こいつ、Su37じゃないか。なんでサピンにこんなのがいる!?》
《ブサルト2、後ろだ、後ろに一機いる!》
《畜生メテオール、こいつをどうにかしてくれ!》
 敵味方の無線が錯綜している。IRシーカーが目標を捉えるが、この角度では当たらない。
『アイリス1、背後のSu27を攻撃します。追尾を中止して右へブレイクしてください』
「了解。タイミング任せるわ」
『……今!』
 アイスの合図と同時にスロットルオフ、エアブレーキを展開して右へ大きくブレイク。
『アイス、FOX2!』
 ほとんど同時に、私の背後につけていたSu27が主翼をもがれて墜落していく。キャノピーが飛び、きりもみに入る機体からなんとかパイロットがベイルアウト。さすがに世界一と言われるK36射出座席。あんな状態でも作動するのか。などと感心している場合ではない。さらに一機のSu27が私の背後を追ってくる。
 小刻みなガンアタックをなんとかかわし、更に減速。失速寸前まで速度を落とす。
 相手もSu27乗り。ここまで速度を殺せば、連想するはず。それを誘うようにエアブレーキをたたみ、機首を大きく上げる。追随するように敵機が機首を大きく上げて直立する。かかった!
 相手がコブラに入るのを確認し、機体を横転させてバレルロール。勿論これではコブラの制動に勝る事はできない。しかし、コブラ中の敵機は「前」が見えていない。
 ハイGバレルロールは、あくまで敵にコブラを誤認させる為の手でしかない。機体を水平に戻さず、そのまま降下して速度を回復する。
 一方、コブラを終えた敵は、私が消えているのを目にする。私は敵機の下をくぐるように右へ離脱。私を見失った敵が混乱しているところに、背後からアイスが張り付く。敵機は速度を完全に失い、回避機動を取れない。追い抜きざまにガンアタック。エンジンを一基ズタズタにする。それだけで終わればまだ幸運だったのだろうが、燃料に引火。機体が燃え上がる。泡を食ったようにパイロットがベイルアウト。アイスは交戦開始から僅か一分あまりで爆撃機を含む四機を撃墜。
『お待たせしました、隊長。目視で爆撃機を確認』
「護衛はこっちで遊んでるわ。好きに食い荒らしちゃいなさい」
『え、いいんですか? やっちゃいますよ?』
「遠慮しないで、お腹いっぱい食べちゃいなさい」
『じゃあお言葉に甘えて。アイリス3エンゲイジ!』
 ここで一機、迂回軌道で爆撃隊の背後に回ったフェザーがB52に対して襲い掛かる。
《もう一機いるだと!?》
《畜生後部機銃、撃て、撃て!》
《射程外だよ畜生! 回避!》
『アイリス3、FOX3、FOX3!』
 立て続けに二機がミサイルの直撃を受け、文字通り消し飛んだ。抱いていた爆弾が連鎖爆発したらしい。
『アイリス3、敵機撃墜!』
《護衛隊、護衛隊! 敵の新手だ! 後ろから好きに撃たれてる、これじゃ鴨撃ち以下だ! 助けてくれ!》
 爆撃機隊の悲鳴を受けて、護衛機が機首を転じる。翼下にセミアクティヴレーダー誘導ミサイル。フェザーに向けてこいつを撃ち込むつもりか。
「あなた達の相手は私達でしょ?」
《くそっ、しつこいぞサピン!》
 爆撃機編隊に機首を転じたF4に張り付く。レーダーで撫でてやっただけで敵機はレーダーロックを中断、ブレイクしていく。
 そのままブレイクしていく機体に追いすがり、IRシーカーロック。R73の恐ろしさは、その高機動性だけではない。最小射程が約200mとガン同様の距離を誇る。
「アイリス1、FOX2!」
 ガンを警戒してジンキングを行うF4のエンジンにアーチャーが突き刺さる。
『アイリス1が一機撃墜』
『アイリス3、FOX2!』
《畜生5番機まで食われた! 当機はエンジン二基停止。戦線を離脱する!》
『アイリス2より1、敵編隊転針。北へ向かいます。追いますか?』
「今日はいいでしょう。他に来ないとも限らないし、放っておきなさい」
『了解。フェザー、護衛機に絡まれる前に離脱して』
『OK。ご馳走様でした』
 離脱を始めた生き残りの爆撃機と護衛隊からフェザーが距離をとる。大きく軌道を外したフェザー機を追う者はいない。
「アイリス1よりカンタオール2、敵爆撃隊の阻止に成功。周辺の状況は?」
『カンタオール2、当該空域はクリア。後続の防空部隊が到着するまで現状を維持せよ』
「アイリス1了解。状況に変化があれば教えてちょうだい。全機散開。レーダーレンジを最大にしてこの空域を監視する」
『2了解』
『3了解。まずは一勝、と』
 フェザーが漏らした呟きに、思わず苦笑する。彼女は四機撃墜。アイスは四機撃墜、一機中破。私は二機撃墜。緒戦、ベルカ空軍相手なら驚異的な大勝利と言っていい。
 しかし、二勝目が来るまで、我々は長い時を過ごす事になる。
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2008年9月12日開設
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Y's@カラミティ
性別:
男性
自己紹介:
エースコンバットシリーズ好きのいい年こいたおっさん。
周囲に煽られる形でついにSS執筆にまで手を出す。

プロフ画像はMiZさん謹製Su37"チェルミさん"長女。