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エースコンバットZEROのSS「PRIDE OF AEGIS(PoA)」の連載を中心に、よもやま好き放題するブログ。只今傭兵受付中。要綱はカテゴリ「応募要綱・その他補則」に詳しく。応募はBBSまで。
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――サピン王国 アリオラ市 2006年6月7日


 元サピン王立空軍第3航空騎兵隊・第14飛行隊「アイリス隊」隊長。アヤメ・カグラ。
 傭兵らしからぬ折り目正しい態度から、「風紀委員」と呼ばれた女。
 航空傭兵専門という珍しい形態の民間軍事会社からサピンに空戦教導隊として参加。編隊列機と教え子は必ず護る、誇り高き女傭兵。

「あの番組は、私も拝見しましたよ。よくぞあれを放送できたと思いますわ」
「皆の力のおかげです。本当に」
 特集記事まで、と彼女は今年の初めに発売されたミリタリー系の雑誌を見せる。巻頭特集は「10年前のエースが残したもの」私が製作した番組に呼応する形で組まれた補完記事のようなものである。あの番組が高視聴率を記録した理由を、丁寧に検証してある、良い記事だった事を覚えている。
「それで……続編、ですか」
「ええ。より深く、より広く。今回は「彼」にスポットを絞ったわけではありませんが」
「あの戦争、ですか……」
 目の前のソファに座った女性は、僅かに視線を落とした。東洋系独特の表情に乏しいと言ってもいい彫りの浅い顔立ちに僅かながら陰が落ちたようにも見えた。
「ええ。確かに、私も飛びました。報告書は、ご覧になったと伺っておりますが」
 彼女は、当時では珍しかった「会社所属」の傭兵、属に言うPMCオペレーターであり、所属軍と本社への報告書は欠かさず提出していた。彼女達が飛んだ空は、完璧に記録に残っている。
「確かに、記録は拝見させて頂きました。私がお伺いしたいのは、貴女が見たもの、です。飛行経路や作戦内容、戦果ではなく」
 一瞬の沈黙。不意に、目の前の女性の視線が和らいだ。
「その為に、こんな山奥までいらっしゃったのでしょう? 会社からも普通の物見遊山な取材とは違うと聞いております。私が、見てきたもの……。お話しましょう。覚えている限り、全てを」
 ゆっくりと、語りだした彼女の記憶は、全く褪せていなかった。それどころか、話せば話す程、その当時の彼女に戻っていくかのようだった。それほど鮮明な話であった。


PRIDE OF AEGIS


――サピン空軍演習空域 1995年1月26日


『仕上げだ。ヘリファルテ1、私が相手をする』
「了解リーリオ1」
 これはDACTだ。命までとられる実戦ではない。そうわかっていても、手が震えた。
 相手は教官機。通常ならありえない、一対一、電子支援なしのシチュエーションだ。視界の先に、ゆったりと余裕を持った機動で飛ぶ教官機のシルエットが見える。最新鋭のユーク系機、Su37ターミネーター。こう言ってはなんだが、傭兵が乗るような機体ではない。そう。この三ヶ月、我々の編隊を鍛えてきた「教官」は、技術指導官としての名目で派遣されてきている傭兵なのだった。
 もっとも、古くから傭兵部隊を正規戦力に組み入れて活用しているサピン軍。機体はともかく、傭兵自体はそう珍しいものではない。だが、教官達は、珍しい存在だと言えた。
『他の機は2、3について低空で待機。2、3彼らの先導を』
『了解』
『了解です。さ、聞いたわね、お姉さん達についてらっしゃい』
『交戦高度は8000以上に限定。特殊兵装使用を許可。ヘッドオンから擦過後、反転、交戦開始とする。いいわね?』
 二番機と三番機が仲間の機体を引き連れて緩いバンク角で旋回しながら降下を始める。教官隊は、全員が女性で構成された編隊。おまけに時代遅れの三機編成。四番機が欠員になっている為らしいが、彼女達は数的な不利を全く感じさせない飛び方をする。
『ヘリファルテ1、復唱はどうしたの』
 おっと。
「ヘリファルテ1了解。高度8000以上で交戦、特殊兵装使用許可確認。いつでも」
 俺の相手は、教官編隊の隊長機。この三ヶ月間で、あの一番機だけは誰も堕とせていない。一対一、教官機はカナードと推力偏向ノズルをロックして「Su27のような」飛び方をする。やれないはずはない。レーダーに「Su37IRIS」の表示が出る。サピン語ではリーリオ。菖蒲の花を隊章に持つ彼女らの機体は、濃淡ダークブルーのスプリンター迷彩。まさにこんな快晴の空に似合う。つまりは視認しにくいわけだが。
『ヘッドオン』
 一瞬で、俺の横を流麗なフォルムの猛禽類が飛び過ぎていく。
「ヘリファルテ1、エンゲージ!」
『アイリス1、エンゲージ』

「訓練終了。ヘリファルテ1、編隊に戻れ。デブリーフィングとレポートを楽しみにしておけ」
『……了解リーリオ1』
 僅かに沈んだ声で、今しがた私が「撃墜」したパイロットが返答してくる。無理もない。彼の機が私を「見え」なかった理由がまだわからないのだろう。
 彼が乗るF15Cのレーダー、AN/APG-63。この優秀なパルスドップラーレーダーにはルックダウン能力がある。だが、そこに落とし穴がある。このレーダーは、捉えた信号の「接近対地速度が一定以上である場合のみ」それが「航空目標」であると判断する。逆に接近対地速度が一定以下の場合、AN/APG-63の優秀なソフトウェアは、捉えた信号をグラウンドクラッター、つまりは地面からの反射ノイズだと判断し、そのシグナルをフィルタリングしてしまうのだ。
 私は旋回後、降下し、彼の機の前を横切るように直角の角度を保って飛行した。これにより、私の機の接近対地速度は地面と同一になる。戦闘機の機上から、目視で「下」を見る事はなかなか難しい。故にレーダーによるルックダウン機能があるわけで、パイロットはそれと同時に「上」を目視索敵する。レーダーに反応はなし、目視範囲に機影なし。ヘリファルテは目標、つまり私をロストした。だが、彼の機のレーダーは、私をしっかりと捉えていた。が、それをレーダーの制御コンピュータは「敵機」である、と認識しなかったのだ。
 私はその混乱に乗じて急旋回。相手のレーダーの走査範囲の走査完了までの時間は一四秒。私は自機のレーダーの電波照射を抑える為にスタンバイ状態に。旋回しながら、フランカー系列に備わるIRST(赤外線捜索・追尾システム)で索敵。この機器は相手の発する赤外線を探知するシステムである以上、自ら電波を発振しないパッシブ機器である為、相手の警戒レーダーはなんの信号も受信しない。捉えた目標に、赤外線誘導ミサイルR73アーチャーでロックオン。この時点で、「演習」では勝負は決まる。
 これが実戦であれば、なんの警告もなく飛んでくるミサイルを目視で探し、回避機動をとることができれば、まだチャンスはある。だがそれは、私がとった戦術を把握した上で「赤外線誘導ミサイルが来る」という認識のもとで警戒していないとできない芸当である。これがもし実戦であれば、ヘリファルテはどこから撃たれたか、何に撃たれたかもわからずに、突然この世から消える事になる。我々の後方につき、帰途についた彼の手は震え、理解不能な攻撃に背筋にじっとりと汗をにじませ、今自分が「殺された」事について反芻している事だろう。
 それでいい。「死ぬのが怖くない」奴が、戦場で生き残れるはずがない。自分の命は何よりも大事だ。それを守れぬ者が、他者を、国を守れるわけがない。自分の身を守る方法を、彼らに叩き込む。死の恐怖、一人で戦う恐怖を一人一人に染み込ませ、常に僚機を意識し、連携を取る強さを教え込む。それが、今の私の仕事だ。
「アイリス1よりアリオラベースコントロール。訓練終了。これより帰投する」
『アリオラBC了解。家に帰るまでが遠足だ。寄り道せずに帰ってくるんだぞ』
「帰り道は覚えてるわ。アイリス1、アウト」
 今の私達のホームベースであるアリオラ基地は、サピン空軍の基地の中でも、とりわけ訓練に時間を割く。それもそのはず、サピン北西部に位置するアリオラは空戦教導団の基地であり、いわばエリート養成校のような場所である。「講師」が私のような傭兵なのは、私の技量の高低よりも、サピン空軍の教範と違う飛び方をする事が重要なのだった。空軍にも傭兵を組み入れる事を恒常的に行っているサピン王国らしい発想と言える。今の私達の肩書きは「技術指導官」であり、サピン軍に所属していながら、階級は存在しない。私が操るこの機も、サピン空軍所有、すなわちサピン王国の資産ではなく私が所属する会社のものである。
『アイリス3より1。お姉様、何か考え事ですか?』
 個別のチャンネルで、私の左後方を飛ぶ3番機、クリス・ソルヴィーノが声をかけてくる。全く。また忘れてる。
「フェザー、空でお姉様(シス)と呼ばないと何度言わせるの」
 叱責ではあるが、個別チャンネルでもある。あくまでやんわりとである事を強調するように「アイリス3」ではなく彼女のTACを呼ぶ。
『あ……す、すみません。でも、その……隊長の飛び方が、少し違っていたので』
 恐縮しながらも、素直な感想をぶつけてくる。基地に戻ってからでもよさそうなものだが、それほど気になる飛び方をしているのだろう。彼女は、私や二番機の機体の挙動や、方向舵の動き方だけで操っている人間の感情まで読むという特技を持っている。長く一緒に飛んでいれば、相手の癖や、タイミングを読む事もできるようになる。しかし、言葉も交わさず感情を読み取るパイロットとなると、私は彼女以外には見た事がない。それほど、私や二番機の機動を見、また地上でも私達をよく観察しているという事だろう。気恥ずかしい程にまっすぐに私達を慕っているというその事実は、隊長としての私の誇りである。だからこそ、上では「お姉様」とは呼ばせていない。空に上がれば、甘えは許されない。それは、彼女に対してではなく、私に対しての方が意味は強い。私は彼女らの隊長なのだ。私は彼女らを護る、導く立場の人間だ。
『おね……隊長?』
「……ああ、ごめんなさい。大丈夫、あなたが心配するような事ではないわ」
『ええ、それはわかるんです。けど、それが何かわからないのが、嫌で』
「……なるほどね。今の仕事よ」
『今の? この任務ですか?』
「ええ。私がサピンで空戦教導官をやっている、その意味をね」
 ここ数年、サピン隣国の動きが慌しい。東のウスティオ、西のオーシア、そして北のベルカ。各国間での動きが、政治的にも、軍事的にも大きく動いている。三年前、92年にベルカ国内においてベルカ民主自由党が政権を掌握してからだ、と思う。それに合わせるように、ウスティオでの天然資源の発見。私は、これが非常に不安だった。
『意味? それは、空軍再編計画、いいえ、彼らが戦場の空で生き延びる為に――』
「そうじゃないの。いえ、私がやっている事は、その通りよ。それを、今している意味」
 予兆は以前にもあった。オーシアに対抗する形で続けられてきた拡大政策がもたらした経済破綻から、ベルカ公国の連邦国であったゲベートが独立、それに続いたのがウスティオだった。その後ファト、ゲベートから分離独立したレクタ、ウスティオから併合という形でラティオ、と続き、更にはオーシアに対しても北方諸島をはじめとした領土割譲が行われ、「ベルカ連邦」は終焉を迎えた。
 彼らはかつて張り合ったオーシアとの協調路線により経済破綻からの脱却を図ったが、五大湖資源開発公社の採算割れ隠蔽事件が、更なる領土割譲を迫る為のオーシアの陰謀だとする説が、弱り切っていたベルカ国民の心を捉えた。ベルカの対オーシア感情は悪化し、止まらぬ国民の怒りは東部の元連邦諸国の独立を許した自国政府にも向けられ、大規模な暴動に発展する程だった。
 そして、92年の極右政党の台頭。そしてそれを煽るかのようにウスティオで天然資源の発見。ベルカの最高裁判所は、連邦法改正は諸外国(つまりはオーシアだ)による内政干渉によるものであり、その改正は違憲である、つまり東部諸国の独立は無効であるという判決を下した。
『隊長、キャリーを加えても?』
 何か思う事があるのだろう。フェザーは二番機をこの会話に加える事を望んだ。私が了解し、チャンネルを隊内に切り替える。
『……何?』
 抑揚に乏しいどころか、感情がないような声が入ってくる。フェザーがこれまでの会話をかいつまんで説明する。普段はこういう話には興味がない、という態度をとる二番機、キャロライン・ヘスは、静かに私の言葉を待っていた。無言ではあるが、それは私の言葉を待っていた。これから、私達がどう飛ぶ気でいるのか、それを彼女は気にしているのであった。
 最高裁判決を受けて、私が今いるサピンを含め、周辺諸国とベルカとの外交交渉が急激に慌しくなっていった。資源問題協議や、経済問題協議、などと言われているが、この三年間の頻度は私に不安を抱かせるに足る頻度である。
 そして、オーシア・サピンを含む、東部諸国のほとんどが、頻繁に軍事演習を行うようになった。なかでもオーシアはあからさまにフトゥーロ運河沿いに艦隊を並べすらした。私達が所属するアリオラ基地も、サピン北部、つまりはベルカに面した地に存在し、私達がこうして精力的に訓練を行っている。
 それら一連の動きは、いまや「軍事的緊張状態」では、なくなりつつあった。
『私達が、彼らに教えてる理由……』
『つまり、隊長は、ベルカが「やる気」だと言ってるのよ』
「……ええ」
 逃げようがなかった。そう。私は、ベルカが、来ると思っている。それも、近いうちに。
 サピン王国、はかれこれ数十年程戦火らしい戦火に巻き込まれていない幸運な国だ。しかし、それ故に周辺国からは、サピンは張子の虎である、という見方もされている。外人部隊を正規軍に組み入れている国(厳密には傭兵とは違うのだが、傭兵と同一視される為)という点でも、その見方は強化されているようであった。
 サピン外人部隊の歴史は、遠く中世にまで遡る。一度は消滅の危機に瀕したサピンが、領土回復戦争の切り札として投入したのがその起源とされている。そして、その戦争の相手は、他ならぬベルカであったのだ。
 そして、近代。戦争を知らない張子の虎は、戦争を知る傭兵に学び、静かに、時を待っていた。
 私達の仕事は、張子の虎を、本物の虎にする事である。私は、そう思っていた。
『……やれ、ますかね』
『やれなければ、死ぬ。あなたも、戦場を知らないわけじゃない。戦場で残る者の条件は、知っているはず』
 アイスのTACを持つキャロラインの声はどこまでもそっけない。
『うん……』
 容姿・言動共に子供っぽい、とすら言えてしまうクリスの声は、若干頼りなげに聞こえた。それまで、抑揚のなかったアイスの声が、ほんの少しだけ和らいだ。
『隊長と上がるなら、どんな空でも飛べる。あなたは、それも知っているはずよ』
『キャリー……』
『隊長は、必ず私達を連れ帰ってくれる。私達は隊長を信じて飛べばいい』
 全てを護れるわけではない。だが、そうなるように、それができるように立ち振る舞うのが隊長の仕事だ。
「そうね。その為に、私がいる。ありがとう、2」
『できる限り、私もお手伝いします。なんなりと、隊長』
 思い悩んでいた事が、ようやく形になり、少しだけ気が晴れた気がした。しかし、それでも、不安は消えなかった。ベルカは近々、ウスティオ国境付近で大規模な演習を行うという噂もある。
 ――それが演習ではなかったら?
 そして、私は予感は、当たる。いや、予感以上の事が、起きてしまう。それを、この時の私は、漠然としか捉えきれていなかったのだ。
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自己紹介:
エースコンバットシリーズ好きのいい年こいたおっさん。
周囲に煽られる形でついにSS執筆にまで手を出す。

プロフ画像はMiZさん謹製Su37"チェルミさん"長女。